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最高裁判所第三小法廷 昭和22年(オ)30号 判決 1948年6月15日

主文

原判決を破毀する。

上告人の訴を却下する。

訴訟費用は原審及び当審とも上告人の負担とする。

理由

上告人平本二郎及び江藤冬雄の上告理由は添附別紙に記載の通りである。

昭和二二年四月三〇日執行された佐賀市会議員選挙において五月一日開票の結果、被上告人は当選し上告人平本は当選しなかつたこと、上告人は佐賀市選挙管理委員会に異議の申立をし同委員会は被上告人の当選を無効と決定したこと、及びこれに対し被上告人は佐賀県選挙管理委員会に訴願をし同委員会は右の異議決定を取消し被上告人を当選と裁決したことは原判決の認定した事実であり、本訴は右裁決に不服ありとして地方自治法第六六条第四項によつて上告人が当選人たる被上告人を被告として提起したものであることは記録によつて明かである。

地方自治法第六六条第四項は都道府県の選挙管理委員会の決定又は裁決に不服ある者が高等裁判所に出訴することができる旨を規定しているが、その訴の趣旨は決定又は裁決の取消を求める訴に外ならない。従つて此の訴を提起するには当該決定又は裁決をした都道府県の選挙管理委員会を被告とすべきものであつて、当選人は実質上利害関係のある者ではあるが、この訴についての正当な被告とはなり得ない。同じ法律に於て、第六八条第一項及び第二項による当選無効の訴に就ては特に当選人を被告とすることを明記している点から見ても、その反面解釈として、当選人を被告とする旨の規定のない第六六条第四項による当選訴訟で当選人を被告とすべきものでないことは窺われるであろう。或は、衆議院議員選挙法第八三条第一項本文の当選訴訟に於て当選人を被告とすべき旨を規定しているので、この規定を類推して、地方自治法第六六条第四項の訴訟に於ても、当選人を被告とすべきものであるとの見解があるかも知れない。然しながら、衆議院議員選挙法第八三条第一項本文の訴訟と地方自治法第六六条第四項の訴訟とはその性質を異にしている。即ち前者は後者のように異議の決定又は訴願の裁決を受けることを要件としていないのみならず、前者に於ては当選を失うた者のみが訴訟を提起し得るのに対して、後者に於ては選挙人又は候補者は何人でも訴訟を提起し得ることになつている。これは前者の主たる目的が当選を失うた者の権利の主張であるのに対して、後者は公益の為めに当選人決定の違法を矯正することを主たる目的とするからである。かように両者はその性質を異にしているのであるから前者を以て直ちに後者を推すわけにはいかないのである。

然るに原審は被上告人を相手とした本訴について投票の効力を判断して上告人の請求を棄却したのであつて、被告が正当な当事者適格をもたないことを看過した違法があり、上告論旨に対する判断をするまでもなく破毀を免れないのである。而してこのように正当でない被告を被告として提起した本訴は不適法であつて、この点において既に裁判を為すに適するから、民事訴訟法第四〇八条に則り上告人の訴を却下することとし、訴訟費用の負担について同法第九六条及び第八九条を適用して主文の通り判決する。

以上は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 庄野理一 裁判官 河村又介)

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